新内横丁の調べから(22)

海外演奏旅行(13)イギリス編 ② – イングランドで心が通う演奏会

人間国宝鶴賀流十一代目家元 鶴賀若狭掾

文化交流使の仕事が始まった。まず落ち着く先の確保。長逗留なので適宜の宿を見つけねばならない。当地で依頼した日本人コーディネーターに全て任せてあるが、果たして初めの宿は酷くすぐ変えてもらう。初めから難儀の連続であった。どうにか捜して落ち着いた。
訪問の初めの第一歩はレンタカーを借りる事である。これがまた簡単ではない。滞在中借りっぱなしではないのでその都度借りにバスで出掛けて行く。移民が多いので英語の発音が悪く(弟子の鶴賀伊勢笑が言ってた)手続きも面倒臭いが、毎回借りて兎に角走った走った。

ロンドン大学音楽課研究員デービッド・ヒューズ先生

ロンドン大学SOAS音楽課研究員ヒューズ先生と[/caption]ロンドン大学SOASでは、立ち見が出るほどの盛況。日本で暮らしていたこともあるロンドン大学SOAS音楽課研究員、文学博士デービッド・ヒューズ先生が日本の文化全体を解説してくれた。それから日本伝統文化を研究しているタイモン・スクリーチ先生が「江戸時代の時代背景」や「なぜこういう音曲ができたか、300年の新内の歴史はどうだったか」を、懇切丁寧に説明してくれた。私もその見事な解説に感心し、誠に参考になった。
その理解し易い導線と雰囲気作りによって、300人を超す聴衆がスーッと江戸時代に入ったようなムードの中で「らん蝶」と「関取千両幟」を語る。その後のいつもの質問時間には大勢の手が挙がり、中には新内の内容の男女平等に関するものもあり、私が「いつの世も悪いのはみんな男ですね、すいません…」と答えると大爆笑となった。洋の東西を問わず、物語の中の男女の関係性は普遍的な関心事のようです。

嘉悦ケンブリッジ教育文化センターでの公演

ゴールドスミス・カレッジでは、公演に先立ち民族音楽科の学生10人にワークショップを行う。音楽専攻の学生であり、初めてにもかかわらず三味線を非常にうまく弾ける学生が多く、質問も専門的であり、心が通う楽しいワークショップとなったものだ。このような若者が三味線に魅力を感じ興味を抱き、お稽古を積んで演奏が出来るようになれば、三味線音楽が普及するのになァ…と夢を持ったものだ。午後のワークショップの後、夜には大学の古い講堂で60人の参加で新内の演奏会を行い二曲語り、皆静かに耳を傾けて聞き入っていた。
その他イングランドでは、パーブルック、イーストボーン、嘉悦ケンブリッジ教育文化センター、ダーラム、ヘリテージ・ハウス・スクールとロンドン補習授業校等を廻る。
この日本人補習校は、ロンドン在住の日本人の子ども達のために、土曜日だけ開かれている学校で、小学生から高校生までの子ども達が日本語の習得のため、または日本語の能力を落とさないために通っている。校内に一歩入ったら「一切の英語は禁止」という場所です。校内の飾り付けも、扇やこけし、提灯、だるま等何か懐かしい日本の古来の品々が展示されている。約150人の児童・生徒、保護者を前に新内の解説をした後、「日高川入相花王」を演奏した。子ども達から記念品を渡された。此処の子ども達にどうしても伝えたかったことを話した。

ダーラムの小学校で新内ワークショップに参加の子供達

ダーラム小学校で新内ワークショップ[/caption]「君たちは、英語ができるから国際人だと思うな。そう思ったらそれは大間違いです。単に英語の言葉が話せるだけでは真の国際人とは言えない。日本の歴史、日本の文化をしっかり学んで、まず自国のことを知り教養を身に付ける事。日本の伝統芸能の何一つ知らず、他国の人から尋ねられて何も答えられずに恥をかいたという人を大勢知ってる。自国のことを学び、理解して初めて相手の国や人々、文化に対する想像力と理解力を持つことが出来る。真の国際人とはそういう人です。素晴らしい伝統ある日本人として誇りと自信を持ち、そして世界に発信し相互理解を成し得て国際人の使命を果たす。今一度日本を見直し再確認をしましょう」と。控室に戻ると校長先生から「私たちが言えないことを言ってくださってありがとうございました」とお礼を言われた。喜んでいいのか情けないのか…。
ここの生徒達のアンケートを帰国後日本に送られてきが、初めて聞く日本の伝統芸に感動したり興味を持ったり、知らなかった無知さに恥じたり、日本に改めて誇りを持ったりなどの感想を楽しく読んだ。

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